だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「圭都の七年間にもうすぐ結論が出る、と言ってた。どっちに転ぶかもわからないけど、と」
結論が出る。
それは、答えをしっかり求めたのだ、という証拠だと思った。
どんな返事にしろ、櫻井さんは受け止める覚悟を決めている。
「山本さんの気持ちは山本さんのものだ。流されずに、しっかりと見つめてやってください」
廣瀬さんは、櫻井さんを心から心配しているのだと知った。
そして、二人の仲の良さを知る。
櫻井さんの七年間を支えてきた人が、ここにもいるのだと思った。
「大切にしたい、と想っています」
この言葉だけで、廣瀬さんには伝わる気がした。
私が言った言葉に、満足そうに廣瀬さんは笑った。
屈託なく笑うその顔は、やっぱりとても幼くて私を安心させてくれた。
秋の気配はより色濃く、私たちに近付いてきていた。
風が私と廣瀬さんの間を通るたび、寂しくなる衝動は増すばかりだった。
いつも見せない左側の顔から、廣瀬さんが視線を外してくれたことが嬉しかった。
自分の内側まで覗かれてしまったのでは、と疑いたくなるその黒いレンズは、遠くの空を目に映していた。
同じように私も目線を上に向けた。
高い空のずっと奥に、小さく黒い雲が見えた。