だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「この後、どうするんですか?」




遠くの空を眺めたまま、廣瀬さんに問いかけた。

廣瀬さんの纏う空気がなんだか柔らかくなったので、私の言葉もどんどん堅さを無くしていく。




「今日、戻る予定です。支店で出来ることは大体、根回ししておいたので」


「そうなんですか」




戻ると言う言葉に、少しずつ現実の世界が近づいてくる。

何気なく聞いたその質問は、やけに重く耳に残った。

なかなか胸に落ちないままで、鼓膜を震わせていた。




「山本さんは、いつ帰るんです?」


「私は、明日帰る予定なんです。今日が旅行最後の夜になりますね」




最後の夜。

今日で函館にいるのも終わり。

まだここにいたい、という気持ちと、早く帰りたい、という気持ちが葛藤している。




「そうか。それじゃあ一日ずらして、もう一晩一緒にお酒を飲めばよかったですね」




その声は、本当に残念だ、と言っていた。

声に感情が出るのが櫻井さんとそっくりで、思わず笑ってしまった。




「今日、やっと自然に笑いましたね」




そう言われて、自分があまり笑えていなかったことを気付かされる。

作った笑いでごまかしていたのだ、と言うことを。



廣瀬さんは、やっぱりどこか怖い人。

結局、見透かされてしまっているのだな、と思う。




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