だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「こんなに近くで人間観察しないでください。緊張するんですよ、これでも」
「仕事柄、人間観察が出来ないとダメなのでね。ついつい、そういう見方をしてしまうんですよ」
そう言うと、廣瀬さんは楽しそうにくすくすと肩を震わせていた。
その様子に恥ずかしさがこみ上げてきた。
広報の営業担当という仕事柄、それは仕方のないことだとわかっている。
ただ、廣瀬さんはあまりに警戒心を無くさせるので、自分がどんどん暴かれていくようだった。
「それに、大事な友人が好きになった人だ。どんな人なのか、知りたいと思うのは当然だと思いますよ」
大事な友人。
ほんのり胸を温かくする。
私という人間を通して、櫻井さんという人に繋がるのだ、と言っているようだった。
ふふふ、という笑いをして廣瀬さんは立ち上がった。
少し伸びをして、私の前に立つ。
見下ろされている感覚が少し苦手だけれど、廣瀬さんの目のせいか、動けずにそのままでいた。
「僕はそろそろ行きますね。またこっちに戻ったら、お伺いに行きますよ。暇を見つけてね」
「はい。お待ちしています」
廣瀬さんに右手を差し出されて、私は立ち上がった。
そして、そのまま握手をした。
繋いだ手から、頑張れ、という気持ちが流れ込んできた気がした。
応援している、と。