だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「それじゃ」
軽く手を挙げて、静かに歩き出す廣瀬さんの背中を見ていた。
華奢な背中。
髪の毛の柔らかそうな感じや、意思の強さを隠した大きな黒目。
可愛らしい顔のつくり。
どれもこれも、現実離れした場所で出逢ったもの。
けれど、確かに今感じている人。
「廣瀬さん!!」
大きな声で、遠ざかるその背中に向かって呼びかける。
驚いて振り向いた顔は、初めて見た素のままの廣瀬さんだった気がする。
「きっと、私らしい答えを出せると思います!大切に、想っていますから!」
それを聞いて、廣瀬さんは一度小さく頷いた。
そして、そのまま歩いて行ってしまった。
その背中はとても逞しくて、この人も素敵な背中をしているな、と思った。
たまに通る風が、秋の匂いを連れてくる。
毎年感じるこの空気の中に、ほんの少しだけ冬の匂いも混ざっている。
秋の香りが薄れていくのは、もう少し先のことだろう。
ゆっくりと過ごしていたので、真上にあった太陽は少しずつ西側に傾き始めていた。
まだ真っ白な光は、徐々にその色をオレンジ色に変えていく。
その様子を、海辺で見たいと思って公園を後にした。