だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「それじゃ」




軽く手を挙げて、静かに歩き出す廣瀬さんの背中を見ていた。

華奢な背中。


髪の毛の柔らかそうな感じや、意思の強さを隠した大きな黒目。

可愛らしい顔のつくり。



どれもこれも、現実離れした場所で出逢ったもの。

けれど、確かに今感じている人。




「廣瀬さん!!」




大きな声で、遠ざかるその背中に向かって呼びかける。

驚いて振り向いた顔は、初めて見た素のままの廣瀬さんだった気がする。




「きっと、私らしい答えを出せると思います!大切に、想っていますから!」




それを聞いて、廣瀬さんは一度小さく頷いた。

そして、そのまま歩いて行ってしまった。




その背中はとても逞しくて、この人も素敵な背中をしているな、と思った。




たまに通る風が、秋の匂いを連れてくる。

毎年感じるこの空気の中に、ほんの少しだけ冬の匂いも混ざっている。


秋の香りが薄れていくのは、もう少し先のことだろう。



ゆっくりと過ごしていたので、真上にあった太陽は少しずつ西側に傾き始めていた。

まだ真っ白な光は、徐々にその色をオレンジ色に変えていく。


その様子を、海辺で見たいと思って公園を後にした。




< 166 / 276 >

この作品をシェア

pagetop