だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
家の前に着くと、櫻井さんは静かにシートベルトをはずした。
その気配にびくりとして思わず櫻井さんの方へ目線を向けた。
目を合わせることが出来ずに、ただシートベルトの繋がれていない金具を見つめていた。
「ありがとうございました。それと、すみませんでした。あんな・・・」
顔を上げることが出来ずに、俯いたままそう告げた。
櫻井さんは私に触れずに、シートの後ろとダッシュボードに手をついた。
触れられない距離にいることを強く感じているのは、櫻井さんだったに違いない。
息遣いまで聞こえる距離にいるのに、私達はあまりに遠く離れた場所にいた。
整理のつかない頭で、その音を聴いていた。
「悪かったな」
小さな声でそう言った。
それは違う。
櫻井さんが悪いわけではない。
誰も悪くなんてない。
どうしようもない気持ちがこみ上げてくるけれど、それを必死に堪えていた。
これ以上、この人を傷つけてはいけない気がした。
自分の肩を抱えていた手をほどいて、すぐ横にある櫻井さんの手に目線を向けた。
そして想った。
あぁ、私はなんて浅ましいのだろう、と。