だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
赤が滲むオレンジの光が、私たちを照らした。
目の前の手すりの水滴も、その光を受けてきらきらと反射している。
その水滴に、そっと手を伸ばす。
揺れては伝って落ちるその雫が、とても儚いものなのだ、と理解した。
「露時雨。降ったり止んだりする秋の雨。朝露が落ちたみたいに、鮮やかな雫」
ツユシグレ。
露のように、景色を彩る雨。
「時雨の名前が入ってる。だからこんなにも綺麗で、こんなのにも記憶に残る」
湊の心を揺らすのが、私の名前。
そのことがどれだけ嬉しいか、この人はわかっているのだろうか。
繋いでいた手にぎゅっと力をこめる。
同じ力で握り返す湊の手に、私の心の全てが集中していた。
「私の名前、沢山探して。いつも湊の近くにいられるように」
そう言った。
誰よりも近くに。
誰よりも長く。
誰よりもたくさん。
誰よりも、傍に。
湊の好きな雨の名前に生まれたことが、こんなに嬉しい。
いとしさが込み上げて、息をするのもままならなかった。
にっこりと笑った湊が、私のおでこに唇を寄せる。
ふわりと近づいた湊からは、私と同じシャンプーの匂いと車の中で微に香るベビードールの匂いがした。