だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「明日帰ったら、二人に話をしないとね」
湊が私の方をしっかりと見ていた。
その色素の薄い目に応えるように、私も見つめ返した。
自分でも、目の中が揺れているのがわかる。
その感情がなんなのか、もう認めずにはいられなかった。
「怖い?お父さんに伝えるの?」
湊は真っ直ぐに私に向かって言った。
湊の声に、嘘はつけない、と想った。
「・・・怖い。お父さん達の幸せを壊してしまうことだと、知っているから」
大切な家族を壊してしまうことは、きっとお父さんとママにとって、とても辛いことだろう。
二人の幸せそうな顔は、私にとっても嬉しいものだった。
大切にされていると知っているからこそ、とても怖かった。
「でもね、時雨」
湊が笑っている。
何かを繕う笑顔ではなく、もう決めている、という笑顔。
「時雨が幸せでいることが、二人の一番の願いだと想う。もちろん、僕も」
幸せでいること。
湊の隣にいないと、今はもう笑えない。
心の底に空いていた大きな穴は、もう湊にしか埋められない。
『幸せだ』と言えるのは、湊がここにいるからだ、と知っている。
かけがえのない湊。
だからこそ本当は、わかって欲しいと想っていた。