だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・時雨」
消えそうな声で私の名前を呼んだ。
震える声に胸が苦しくなって、何度も何度も湊の頭にキスをした。
頬擦りすると、それにあわせて力の入る腕の中で、冷たくなった潮風を受け止めていた。
夕闇が迫り、夜の帷が降りる。
湊の弱さは、宵闇が隠してくれる。
もう大丈夫だよ。
「何度でも言うよ。湊より大切なものなんて何もない、って。若いからとか、近くにいるから、とか。そんなの知らない。だって、私の細胞が湊を求めてる」
「・・・時雨。俺も」
そう言ってそのまま私にキスをした。
強引に押し付けられたその唇は、驚くほど冷たくて熱を分けてあげるのに必死だった。
少しでも、このもどかしい身体を越えたくて。
何度もその強引さを受け止めた。
頬に触れる冷たい手に自分の手を重ねる。
風に揺れる柔らかい髪をそっと撫でる。
いつもより頼りなく感じるその身体を、力の限り抱き締めていた。
少し離れてお互いのおでこをくっつけたまま、見つめ合う。
二人とも潤んだ瞳のまま、小さく笑った。
おそろいだ、と想って。
いつもは絶対に見せたくないだろう姿に、恥ずかしがっているのが分かって、また笑った。
夕闇が迫る秋の海辺で。
二人で笑ったんだ。