だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「時雨、言って」
優しい声。
冷たい手。
柔らかい髪。
私が映る目。
細くてしなやかな身体。
こんなにも、いとしい。
「湊の、隣にいさせて」
一つになりたいと想った。
でも、今は違う。
一人で生まれて、別々の存在でよかった。
自分よりも大切に想える人に、出逢えてよかった。
目の前のこの人に、触れられる自分でよかった。
生まれた時は誰もが一人。
誰に理解されることもない孤独を、誰もが背負って生まれる。
どこか不完全で、どこか不安定で。
埋めることなんて出来ないものがあってもいい。
自分の心の中を全てわかってもらえなくてもいい。
少しずつ支えあって、少しずつ分け合えればいい。
「例え細胞がなくなって灰になる日が来ても。その最後の粒子まで、時雨のものだと誓うよ」
私も、と言いたかった。
けれど言葉がどれだけ無力か知っているので、そのまま手を伸ばして湊にしがみついた。
止まらない涙は、湊の肩に押し付けた。
細胞が消えて粒子になっても、きっと貴方を憶えてる。
それがどんなに奇跡のようなことでも。
なかったことになんて、絶対にしない。