だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「同じ気持ちで、いてくれたんだね」
そう言って抱き締めた。
湊はとても嬉しそうに私を抱えていた。
優しく抱き締めるその腕が、力強い時よりも切なくさせた。
「ごめん、実は指輪も何もないんだ・・・」
ぽつりと湊が言った。
なんだかバツの悪そうな声で。
「本当はもっとちゃんと言いたかったんだけど、思わず口からでちゃって。ロマンチックさのかけらもないな・・・」
湊らしい。
想ったことを、想ったままに。
肩が震えて、くすくすと笑いがこみ上げる。
抑えきれなくなってしまった。
「そんなに笑うことないだろう」
「だって・・・」
なかなか笑うのをやめない私を、少しだけぎゅっと力を込めて抱き締める。
湊の抗議の力。
そんなの嬉しいだけなのに。
「いらない。指輪なんて。カタチなんて。湊の言葉だけでいい」
いつか手放すもの。
いつか壊れるもの。
そんなものより、心に刻まれるものがいい。
「欲がないな、時雨は」
つまらなそうに湊は言った。
声は嬉しそうに聴こえたけれど。
「欲張りだよ。湊のカケラまで、全部私のものなんだから。いつまでも、ずっと」
胸の中で私の匂いと湊の匂いが混ざっている。
車の中はもう宵闇。
二人の影は、その中に溶けていた。
湊が私にキスをする感覚だけが、鮮やかに刻まれた。