だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
欠片...カケラ
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一人で立ち尽くしていると、なんだか身体が冷えてきた気がする。
手を見ると血色が悪く、青い筋が白い手の上に浮かんでいた。
「寒い・・・」
自分の両手で肩を抱き、小さく呟く。
陽はすっかり沈んで、辺りは車の音と夜のネオンが際立つばかりだった。
この場所に立つと、とても幸せな気持ちになる。
想い出が散らばっていることは、苦しいばかりではない。
だって、色褪せない約束をくれた場所だから。
一度ゆっくり目を閉じて、波の音とその景色をしっかりと感じる。
雨の降る気配のないこの場所は、とても乾いた風が吹いていた。
車に乗り込みホテルに向かう。
冷えた身体は少しガタガタと歯を鳴らしていたが、すぐに落ち着くだろう。
エンジンをかけてシートベルトをする。
この手を掴んで欲しいな、と考える。
今はどこにもいない、その手を想い出していた。
「当たり前の日々が、特別だった・・・か」
社長賞、なんて。
あの時簡単に言った湊に呆れる。
あんな綺麗な言葉なら社長賞だって取れるな、と今なら納得出来るけど。
残された言葉は、今も私に重く響く。
本当に特別だったのだ、と今ならわかる。
家には湊がいて、お父さんがいて、ママがいて。
普通の家庭とは少し違うけれど、私たちは当たり前に一緒に過ごした。
傍にいる人たちが、いなくなることなんて考えずに。
それが、特別な日々だとも知らずに。