だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版

欠片...カケラ






――――――――――――――……
―――――――――――――……




一人で立ち尽くしていると、なんだか身体が冷えてきた気がする。

手を見ると血色が悪く、青い筋が白い手の上に浮かんでいた。




「寒い・・・」




自分の両手で肩を抱き、小さく呟く。

陽はすっかり沈んで、辺りは車の音と夜のネオンが際立つばかりだった。


この場所に立つと、とても幸せな気持ちになる。

想い出が散らばっていることは、苦しいばかりではない。



だって、色褪せない約束をくれた場所だから。




一度ゆっくり目を閉じて、波の音とその景色をしっかりと感じる。

雨の降る気配のないこの場所は、とても乾いた風が吹いていた。



車に乗り込みホテルに向かう。

冷えた身体は少しガタガタと歯を鳴らしていたが、すぐに落ち着くだろう。

エンジンをかけてシートベルトをする。



この手を掴んで欲しいな、と考える。

今はどこにもいない、その手を想い出していた。




「当たり前の日々が、特別だった・・・か」




社長賞、なんて。

あの時簡単に言った湊に呆れる。

あんな綺麗な言葉なら社長賞だって取れるな、と今なら納得出来るけど。

残された言葉は、今も私に重く響く。




本当に特別だったのだ、と今ならわかる。

家には湊がいて、お父さんがいて、ママがいて。


普通の家庭とは少し違うけれど、私たちは当たり前に一緒に過ごした。

傍にいる人たちが、いなくなることなんて考えずに。




それが、特別な日々だとも知らずに。




< 181 / 276 >

この作品をシェア

pagetop