だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
レンタカーを返して、ホテルの部屋に戻ると時刻は十八時を過ぎていた。
随分長くあの場所にいたんだな、と気付く。
お腹が空いていることも、身体が冷えていたことも、今になって感じる。
明日は十二時過ぎのJRに乗り込んで家に帰る。
時間はまだまだたっぷりある。
むしろ持て余してしまって、少し困っていた。
こんなことなら、今日帰ることにしておけばよかった、と思っていた。
そうすれば、着替えの洗濯も家の荷物の片付けも面倒になって投げ出しても大丈夫だったのに。
おもむろに携帯電話を取り出す。
無機質なその四角い塊は、なんだかずっしりと重く感じた。
お父さんとママと、ずっと連絡を取っていない。
忙しいことを理由に、なかなか家にも帰れずにいた。
たまには連絡をしなくては、と思うのにいつも少し緊張してしまう。
それでも、今日は声が聞きたいと思った。
寂しさを分け合える人と、話をしたいと思った。
電話帳の中から、実家の電話番号を探す。
二人とも携帯を持っているけれど、そのほうが良いような気がした。
出なければ出ないで、構わないような気もした。
ダイヤルする音のあとに呼び出し音が鳴る。
――――プルルルル、プルルルル、――――
なかなか出ない、と言うことは家にいないのかもしれない。
留守電になる覚悟をした時、受話器を取る音がした。