だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『もしもし・・・っ』
久しぶりに聞いたママの声は、少し急いできたような声だった。
別に電話の相手くらい待たせてもいいのに、と思って笑いが漏れる。
『時雨ちゃんでしょ?元気だった?どうして笑ってるの?』
「久しぶり、ママ。電話にそんなに急いで来ることないのに。留守電だって付いてるんだから」
ママの声は元気そう。
この時間にいるということは、今日はお休みだったんだろう。
「ご飯の支度してた?今日お休みだったんでしょ。お父さんは?」
『潤さんは早番だから、もう少ししたら帰ってくるんじゃないかしら。今日は寒くなってきたから、お鍋にしようと思ってるのよ』
お父さんはまだいないんだ。
ママと他愛もない話をする。
最近のこととか、仕事のこととか。
結婚の話をママからしてこないのは、ママの優しさだと思った。
『そうだ、折角だからご飯食べに来たら?今お休み中なんでしょう?』
「いやいや、今日は行けないよ。今、函館だから」
あら、そうなの、と残念そうにママが言う。
その様子になんだかほっとする。
世話焼きなのに、どこかほったらかしのママ。
小さい頃から一緒にいるけれど、ずっと友達みたいな人だ。
優しさを上手に誤魔化しながら与えてくれる人。