だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「今年も、帰れなくてごめんね。お盆も昨日も」
そう言うと、ちょっとだけ苦しそうにママは笑った。
いつもこんな風に、ママを苦しめてしまう。
どうすることも出来ずに。
『いいのよ。湊のことを想い出してあげるだけで、いいの。時雨ちゃんが湊を心から大切に想っていることは、誰より知っているつもりだから』
本当にありがとう、と想う。
自分を産んだ母親よりも私が大事だ、と言った湊の背中を押してくれて。
その息子が自分よりも先にいなくなっても、私の心配ばかりしてくれて。
お父さんの傍にいて、支えてくれて。
「気持ちの整理がついたら、ちゃんと帰るから」
そんな日が来なければいい、と想っている。
けれど、その日が近付いているのもわかってる。
どうしようもない気持ちで、少し黙ってしまった。
『時雨ちゃんの部屋、そのままにしてあるから。湊の部屋も』
少しだけ唇を噛み締めた。
あの私たちの部屋は、きっと時間が止まったように置き去りのままだ。
だって、誰にも触れて欲しくない。
大切な場所だから。
そこに帰れば湊に会える気がする。
けれど、帰ってしまえば、そこにいないことを非道く実感するのだろう。