だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「はい」
「山本様のお部屋でよろしいでしょうか?こちらフロントでございます」
不審を露わにして、小さな声で電話に出た。
受話器から聞こえる明るい声に、あからさまにほっとする。
何事かと思ってしまったので、なんだかどっと疲れてしまった。
「はい、そうです」
「フロントに南様という方がお見えになっておりますが、いかがなさいますか?」
えぇ!?
水鳥さん!?
何がどうなっているのかわからなくなって、ぽかん、と口が開く。
こんな顔、誰にも見せられないな、と鏡に映った自分を見て気を取り直す。
なんで函館に?
しかも、この時間にいるって事は、お昼過ぎには函館に向かったってことだ。
JRで来たのか、車で来たのかさえわからない。
頭の中は、ぐるぐると疑問ばかり浮かんでいるけれど、答えなんて出るはずもなかった。
「あの、山本様。いかがなさいますか?」
「あっ、すみません。今、フロントまで伺います」
「かしこまりました」
とりあえず帰ってきたままだったので、化粧も服もきちんとしている。
鞄だけを肩にかけて、急いで部屋を飛び出した。