だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
ロビーに下りてフロントに向かう。
どこにも水鳥さんが見当たらなかったので、まずは聞いてみることにした。
「すみません。先ほどお電話頂いた山本ですが、南さんはどちらに?」
「先ほどまでそちらにお掛けになっていたのですが・・・どちらかに行かれたのかと」
「そうですか、すみません。探してみます」
そう言って、辺りを見渡す。
それらしい人物が見当たらないので、携帯を取り出して電話をかけることにした。
ロビーの椅子に腰掛けて、水鳥さんの番号を探す。
その時、電話が震えて思わずボタンを押してしまった。
画面に出た名前をみる。
そして、どうしてこんなタイミングで、と思う。
「もしもし、どうかしましたか?」
『なんて声だよ。せっかく電話したってのに』
少しだけため息交じりの声になってしまう。
櫻井さんは少しむっとした声で答えた。
確かに少し感じが悪かったかもしれないけれど、今は水鳥さんに連絡を取りたいのに。
図ったようなタイミングに、いつも動揺してしまう。
「すみません。でも、今ちょっと急いでて・・・」
『そうか』
それだけ言うと、電話越しに硬い床の上を歩く足音がした。
ゆっくりと歩く足音。
聞きなれた、その音。