だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「九月二十三日。湊さんの命日だろう?」
湊のカケラはこんなところにもあった。
この人は、そのカケラを必死に私に渡してくれようとした。
けれど、この人が渡すカケラはどれも受け取りがたいものだった。
現実を突きつけられるものばかりだから。
「やっぱり、櫻井さんといるのは苦しいです」
そんな言葉がぼろり、と落ちた。
乾いた笑いとともに。
それを聞いて、櫻井さんも笑った。
同じように。
「そうだろうな。でも、受け止めてもらわないと、前に進んではくれないだろう?」
なんて残酷な人。
そして、とても優しい人。
遠慮とか、気遣いとか。
そういうものは有り難い反面、相手に嫌われるのが怖いと考え、自分を守る手段なのだと思う。
本当の相手を見つけるためには、相手を傷つけるのを厭わず向かい合わなくてはいけない。
私が色々なことに向き合えないと、前に進めないのを知っている。
それが、周りの気遣いのせいだと、気付いている。
櫻井さんは、私が前に向くために嫌われても構わない、と正面から突きつけてくる。
自分が好かれることよりも、私のためを想ってくれている。
そんな風に自分を犠牲にするところまで、湊にそっくり。
痛いくらいに。
「とりあえず行こう。俺の部屋でもいいか?」
首を振ったところで、また部屋のドアを叩かれるのは目に見えていた。
小さく頷いて立ち上がり、櫻井さんの背中を追った。
目の前の背中を見て、また少し苦しくなった。