だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
絵空事...エソラゴト
案内された櫻井さんの部屋に入った途端、入り口で立ち尽くしてしまった。
目の前に広がる海の景色に広い部屋。
最上階のツインの部屋を取る必要が、独身男の一人旅にあるわけがない。
「櫻井さん、コレ・・・」
入り口に立ったままの私を見て、櫻井さんは楽しそうに笑っていた。
少し意地の悪い顔をして。
「あぁ。最上階のツインルームだけど?男一人旅にはもったいない、とか思ってる?」
頭の中を見透かされたことに動揺する余裕もないほど、私は固まっていた。
そんな私を見て、くすくすと笑いながら上着を脱いで窓際の椅子に腰掛けた。
いつの間に冷蔵庫から出したのか、手には缶ビールを三缶持っていた。
「ま、座れよ」
予想通りの私の反応に満足したのか、櫻井さんは私を窓際に促した。
その言葉に何とか反応して、私は櫻井さんの向かい側に腰を下ろした。
「ほら」
差し出された缶ビールはしっかり冷えていた。
片手で器用に缶を開け、もう一つの缶は両手で丁寧に開ける。
とても大切そうに。
それを見て、私も自分のビールを開ける。
プルタブを引くと、プシュッと気持ちのいい音を立てていた。