だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「相変わらずいい飲みっぷりだな」
楽しそうな声が聴こえて、ふっと笑ってみせる。
お酒は心を軽くしてくれるのだ、と思い出していた。
「飲みたい時に飲めるって、幸せだなぁと思って」
「嬉しそうなのはそれだけか?」
私の方を見ずに、なんの感情もない声で問いかけてくる。
その声は、私を見透かしている声だとわかっていた。
「・・・それだけです」
「嘘、下手すぎだろ」
楽しそうに笑って、櫻井さんは言った。
缶ビールを勢いよく飲んでいるのは、櫻井さんも同様だった。
ドアのインターフォンが鳴り、ルームサービスが届く。
テーブルに並べられたそれに、なんだか手を出せずにいた。
窓のビールに目を向ける。
外の海と明かりが、ビールの周りを囲んでいた。
「三人で、飲みたいと思っていたんです。湊と、櫻井さんと」
そっと言った。
出来るだけ柔らかく響くように、と想いながら。
湊のことを憶えている人が、そこに湊がいるのだと感じてくれることでさえ嬉しい。
なかったことにして欲しくない。
誰かにこの気持ちをわかって欲しかった。
そのことを、この人はわかってくれている。
そう、感じていた。