だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「お前のその顔を見るのは、二回目だな」
「え?」
「湊さんのこと考える顔」
櫻井さんが私を見ていた。
その視線に向かって、私も同じ視線を返していた。
目が合ったまま、どうすることも出来ずにいた。
「その顔見ると、どうしようもなくなるんだよ」
そう言って、窓の外に視線を逸らす。
缶ビールを煽って、少し息をついていた。
「羨ましい、って想う。でも、悔しい、とも想う」
櫻井さんの笑顔は崩れない。
それは、作った顔ではないと、すぐにわかる。
「湊さんのためにする顔と、俺のためにする顔。両方を作ってくれればいいのに、って想う」
湊のための顔。
櫻井さんのための顔。
「焦ってんだよな、俺。こんなとこ、見せたいわけじゃないのに」
櫻井さんは私の返事なんて求めていなかった。
それは、湊に語りかけているのかも、と思う口ぶりだった。
いつも傍で相談していたのだろう、と容易に想像できる。
まるで、分身を失ったように辛そうな顔をしている櫻井さん。
湊が、どうしてここにいないのか、と全身で叫んでいた。