だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
残りが少なくなったビールを一気に飲みきる。
軽く缶を握ってへこませる。
それをテーブルの上に、かたん、と置いた。
いびつな形をしたそれは、倒れることなくそこに立っていた。
斜めに曲がった身体を、必死に支えているようだった。
「しぐれ、もう一缶取ってくれるか?」
小さく頷いて、私もビールをテーブルに置く。
だいぶ軽くなった缶は、軽い音を立てていた。
冷蔵庫の中には、ビールのほかに缶チューハイやフルーツワインなんかも入っていた。
それも、私が好きなものばかり。
櫻井さんはあまり飲まないだろう物たちが、ぎっしりと詰め込まれていた。
「ビールで、いいんですか?」
「ビールでいい」
冷蔵庫の中身を見たまま、櫻井さんに言う。
立ち上がる気配がしたけれど、私は微動だにしなかった。
少し遠くから聞こえた声に合わせて、冷蔵庫からビールを取り出す。
さっきよりも冷たい感触は、少し私を驚かせた。
振り向くと、櫻井さんは窓際に立っていた。
じっと窓の外を見ている背中が、そこにいた。