だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
後ろからそっとビールを差し出す。
もう片方の手には、きっと私に買ってくれてあった缶チューハイを手に持っていた。
ビールを受け取って満足そうな顔をして櫻井さんは、また目線を窓の外に向けた。
私は椅子に座り残りのビールを一気に流し込む。
少しぬるくなったそれは、炭酸が喉を通る感覚が強くなる。
空になった缶をそのままテーブルにおいて、持ってきた缶チューハイを開ける。
強いお酒ではなく、軽めの甘い缶チューハイも私は大好きだ。
お酒は美味しいことに限る。
「湊さんの隣にいるお前に会いたかったな」
唐突に櫻井さんは言った。
その言葉になんと答えていいかわからず、目線だけを櫻井さんに向けた。
こちらを向かない背中に。
「そうすれば、こんなに欲しいと想わなかった気がする」
背中が頼りない。
いつもは逞しい櫻井さんの背中が、今日はとても儚く見えた。
「いや、それでも今と同じ気持ちになってたのかもな。正々堂々、時雨が好きだって言いたかった」
正々堂々。
湊に向かって。
言って欲しかった。
そうすれば、湊は絶対にダメ、と言ったのに。
そして目の前で笑って、なかったことに出来たのに。