だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





後ろからそっとビールを差し出す。

もう片方の手には、きっと私に買ってくれてあった缶チューハイを手に持っていた。



ビールを受け取って満足そうな顔をして櫻井さんは、また目線を窓の外に向けた。

私は椅子に座り残りのビールを一気に流し込む。

少しぬるくなったそれは、炭酸が喉を通る感覚が強くなる。



空になった缶をそのままテーブルにおいて、持ってきた缶チューハイを開ける。

強いお酒ではなく、軽めの甘い缶チューハイも私は大好きだ。


お酒は美味しいことに限る。




「湊さんの隣にいるお前に会いたかったな」




唐突に櫻井さんは言った。

その言葉になんと答えていいかわからず、目線だけを櫻井さんに向けた。

こちらを向かない背中に。




「そうすれば、こんなに欲しいと想わなかった気がする」




背中が頼りない。

いつもは逞しい櫻井さんの背中が、今日はとても儚く見えた。




「いや、それでも今と同じ気持ちになってたのかもな。正々堂々、時雨が好きだって言いたかった」




正々堂々。

湊に向かって。




言って欲しかった。

そうすれば、湊は絶対にダメ、と言ったのに。

そして目の前で笑って、なかったことに出来たのに。




< 197 / 276 >

この作品をシェア

pagetop