だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「櫻井さんの中にも、湊は生きているんですね」
言った言葉に、やっと櫻井さんが振り向いた。
少しだけ苦しそうな笑顔をこちらに向けて。
「生きてるよ。いつも呼んでる。どうしたらいいか、っていつも」
だからこんなにも櫻井さんの気持ちが痛いのだ、とわかる。
湊のカケラを、この人もまだ探し続けてくれている。
周りになんと言われようと、湊のカケラは沢山あるのだ、と知っている。
「まだ七年しか経ってないんだ。忘れられるかよ」
その言葉はあまりに簡単に私の涙腺を壊していった。
涙をせき止めるものを、全て薙ぎ払う強さを持っていた。
嗚咽が出る間もなく流れた涙は、ぼろぼろと溢れていった。
『まだ』七年。
誰もそんなこと言ってくれなかった。
時間の長さを共有することなんて出来ないけれど、この人は同じ時間の中にいる。
前に進むためにはこの時間を進めなくてはいけない。
『もう』七年に。
でも、私にはまだそんなこと出来ない。
だって、『まだ』七年。
かけがえのない存在だったからこそ、私にとってはこれからも唯一の人。
そんな、簡単なこと。
わかってくれたのは、櫻井さんだった。