だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
夜長...ヨナガ
落ち着きを取り戻すと同時に、私はバスルームの鏡に向き合っていた。
そこに映る私は、泣いて落ちた化粧のせいでひどい顔をしていた。
「うわ・・・」
こんな状態でこれからゆっくり飲むのかと思うと、少し気が引けた。
けれど、櫻井さんとゆっくり話がしたかった。
目元のマスカラと顔にある涙の跡をなんとかして、櫻井さんのところへ戻った。
「化粧を気にするなんて、女らしいところも残ってたんだな」
軽口を叩いても、今はそれに救われているのだと知っている。
この人はいつもこうやって、私を先回りしてくれていたのだ。
櫻井さんという人をしっかり見ていなかったのだ、と今更ながらに思う。
「あまりにひどかったので、少しげんなりしました」
「女は泣くとパンダになるからな」
「思い出させないでください!忘れたいので、飲むの付き合ってくれますよね?」
そう言って、冷蔵庫からフルーツワインを取り出した。
グラスを二つ持って、窓際のテーブルに置く。
注いだ液体は、月の光のようにきらきらとしていた。
テーブルに並ぶ料理は、ほとんど手を付けられないまま冷めてしまっていた。
「付き合ってやるさ、いくらでも」
優しく笑った顔は、しっかりと私を見つめていた。
その目を見て、私もにっこりと笑って見せた。