だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「弱いところ見せるの、すごい嫌がるし」
「そのくせ、そういう繊細なところが滲み出たりしてな」
あの背中は、沢山のことを自分で背負ってきた背中なのだと思う。
重ねた嘘も。
感情を隠すことも。
背徳も。
自分だけで、背負おうとする背中。
「自分だけでどうにかしよう、って。いつもそればかり。自分のことを、犠牲にしてばかり]
そう言って、窓際に目をやる。
すっかりぬるくなったビールは、まだ置かれたままだ。
「それくらい、大切にしてたんだろ。俺は、それをいつも見てた。ただ、聞いてた」
そんなことを聞いていた人は、他には絶対にいないと想った。
湊は、そう簡単に人に弱いところを見せたりしないから。
「櫻井さんのこと、信頼してたんだね」
窓に向かって問いかける。
なんの気配もしない、その場所に向かって。
「・・・信頼、されてたよ。ものすごく」
なぜだか重く響いた気がした。
その言葉を聞き流してはいけないような気がした。
櫻井さんは、少しだけ苦しそうに笑っていた。
その顔が、私に何も言えなくさせた。