だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
ゆっくりと立ち上がって、私の目の前に来る。
触れることなくひざまずく。
さっきしたように。
手すりに手をかけるだけで。
目線の高さを合わせて、そっと私を見つめる。
この距離感を嫌だと想わない自分がいる。
むしろ緊張している、と。
この人の綺麗な顔がここにあることが、私の心臓を強く動かしている。
見つめられる度に、苦しくなる。
触れられる度に、切なくなる。
心を覗く度に、私の心が揺れる。
いとしい、と。
湊とこの人は別の存在で、全く違う存在だと理解した。
どんなに似ていても湊ではない。
だから、どんなにこの人の感覚が増えても、湊が上書きされることはない。
別の存在として、大切にしていければいい。
忘れることなんて、出来ないのだから。
この人を必要としていることに、気が付きたくなかった。
気付いてしまえば、湊がいなくなると想っていた。
でも、違う。
この人の中にも、沢山の湊のカケラがいる。
私の中にも。
二人で、大切にしていければいい。
それが出来るのは、この人しかいない。
櫻井圭都しか、いない。