だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「私・・・」
言葉にすると、上手く言えない気がした。
答えなんて、出るわけがないと想っていた。
それなのに。
今はこんなにも明確に気持ちが動いている。
この人を好きか、と言われたら今は言葉に出来ないかもしれない。
それでも、大切に想い始めている。
いとしい、と心が揺れる。
一言も言葉を発しない目の前の人は、ただ柔らかく笑っている。
さっきまでの怖さはどこかへいってしまった。
ただ見つめられるその目に、恥ずかしくなって俯く。
自分は、こんなにも勝手な人間だったかな、と想って。
誰かをいとしい、と想うことは、自分の愚かさを知ることだ。
簡単に心が揺れる自分を、心底恥ずかしく想う。
それでも、手を伸ばしたい。
恥知らずで構わない。
一人で、立っていられない。
どうにも出来ない苦しさを、この人はわかってくれる。
支えてくれる。
どんな私でも、受け入れてくれる。
湊とは違う。
それでも同じ安心感をくれる。
傍にいたい、と想う。
俯いたまま、目線を手すりに向けた。
そのまま、右手を手すりに伸ばす。
触れた櫻井さんの左手は、骨ばった大きな手をしていた。
冷たい手。