だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
ねえ、湊。
そっと問いかける。
返事が返ってこないことも
私にはわかってる。
悲しみばかりが、積もるよ。
切なさばかりが、積もるよ。
まだ、恋しくて堪らない。
まだ、好き過ぎて堪らない。
それなのに、重ねたいと想う手がここにあるよ。
乗せた手を、そっと握るその左手は、湊とよく似た冷たい手。
せっかく泣き止んだのに、また涙が溢れて仕方がない。
わかっていた。
縋ってしまえば、離せないことを。
こんなにも、いとしい、と想ってしまうことも。
湊。
今も、私の幸せを一番に考えてくれるかな。
この人に縋ることは、貴方を裏切ることにはならないかな。
この人と、貴方のカケラを大切にしていけるかな。
ぎゅっと握られた手は、私をしっかり包んでいた。
そのままそっと抱き寄せられた。
目の前の櫻井さんの肩に、頭を預けていた。
私の頭に、櫻井さんが頬擦りをする。
くすぐったくなって、また涙が落ちる。
そっと離れて、櫻井さんが私を見つめる。
唇がすぐに触れそうな距離で。
綺麗な目の中に私が見える。
整った顔がそっと近付いて、長い睫毛が目の前で揺れる。
恥ずかしくなって目を閉じた。
柔らかく触れた唇に、また少し、涙がこぼれた。