だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「そうね。一応、出世街道まっしぐらのエリートさんですもの」
そう言った水鳥さんの顔は、とても綺麗に見えた。
まだ二人の関係について核心を突いたことはない。
けれど、最近の二人を見ていると、その関係は一目瞭然のように感じた。
自分のお猪口を持ち上げて、一口飲み込む。
寒い季節になったな、と実感する温かさが喉をすべり落ちてきた。
「それで。シグは『お試し期間』上手くいってるの?」
「う・・・、まぁ。それなりには」
楽しそうに笑う水鳥さんを見ることが出来ずに、真っ直ぐ前を見て答えた。
くすくすと笑う声が、私を更に火照らせた。
「会社での櫻井君、必死に隠そうとしてるわよね。少し白々しいくらい」
「いつも通り、っていうのが出来ないんですかね」
二人で悪口を言って、少し笑う。
外での仮面が厚いのは絶対に女の方だ、と思う。
男の人は、一度剥がれた仮面をつけなおすことが出来ないのだな、と知った。
意地の悪い水鳥さんのせい、というのも否めないけれど、そんな櫻井さんを見ていて楽しいのも事実だった。