だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
夏休み最後の日。
函館で櫻井さんと一緒に夜を過ごした。
と言っても、また一緒に眠っただけ。
ただ繰り返されるキスの嵐に、必死に応えてはいたけれど。
あの日から、『お試し期間』と言うことで恋人として過ごしている。
二人で決めたルールで。
一つ、下の名前で呼び合うこと。
一つ、お互いの家の合鍵を渡すこと。
一つ、寝るときは同じ布団で寝ること。
一つ、一線を越えないこと。
合鍵を渡して同じ布団で寝るのに、一線は越えない。
なんて馬鹿げたルールだろう、と思うけれど、今の私たちには大切なことだった。
特に、私には。
私たちが本当に恋人同士になる時は、私が決める。
私にはまだ、櫻井さんに言えないことがある。
『好き』と私が言ったら、私たちは本当の恋人になる。
それまで『待つ』と言ってくれた櫻井さんに、甘えてしまったのだった。
「櫻井君も、粘ったわね。シグは絶対になびかないと思ってたのに」
楽しそうに言う水鳥さんの言葉に、私もです、と小さく同意した。
二人で顔を見合わせて笑った。
水鳥さんと飲むお酒は、本当に楽しい。