だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「水鳥さん、櫻井さんからどこまで聞いてるんですか?私たちの事情」
一度聞いてみたい、と思っていたことを聞いてみた。
少なくとも、湊のことくらいは知っているんだろう、と思っていた。
「あら、櫻井君何も話してないのね」
驚いたように水鳥さんが言った。
そうして、ふっと顔をゆるめて笑った。
とても綺麗な顔で。
「櫻井君は大学時代の後輩よ」
目が点になった。
・・・後輩?????
・・・と、言うことは。
「必然的に山本君も後輩、と言うことになるわね」
開いた口が塞がらなかった。
こんな身近に湊のことを知っている人が、二人もいたなんて。
目をぱちくりしている私を見て、水鳥さんは楽しそうに笑っていた。
「まぁ、私は山本君とあまり関わりはなかったんだけど」
「そう、ですか・・・」
「山本君の話は、櫻井君から聞いていたくらいなのよ」
「水鳥さんは、会ったことがありますか?・・・湊に」
「あるわ」
水鳥さんの顔が少しだけ翳る。
何か言いづらいことを言うように。
いつもは華が咲いたように笑う水鳥さんが、こんな風に翳るのはとても珍しい。
なんだか口を挟む事が出来なくて、お銚子を持ち上げてみる。
水鳥さんは嬉しい、というようにお猪口を差し出した。