だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「若い時は真剣に私だけを、なんて人いなかったから」
「そんな・・・」
「まぁ、私のことはいいのよ。何にせよ、そんな風に誰かを好きになりたい、って想ったわ。想われたいって。恋愛は綺麗なだけじゃいられないけど、大切にしたいって気持ちはなくならないもの」
そう言った水鳥さんは驚くほど綺麗だった。
きっと、今はそんな風に想える相手が傍にいるからなんだろう。
なんとなく聞けずにいたけれど、いつかきっと話してくれる。
そんな気がしたので、何も言わずにいた。
「そんな風に想わせてくれた人に、感謝をしないといけないですね」
「あら、一人目は山本君かもしれないわよ?」
「・・・複雑ですけど、良しとします」
「ふふふ、寛大ね。二人目は今度・・・、もう少しシグが落ち着いたら。ゆっくり話すわね」
「はい。待ってます」
「・・・ありがとう」
水鳥さんがお銚子を私に向けてくれる。
それをお猪口で受け取った。
注がれたお酒は、とても優しい味がした。
「シグには時間が必要だから、焦ることはないわ。櫻井君とのこと」
情報が筒抜けなことは、何も話さなくてもわかってくれる、ということでもあるらしい。
先回りをして私を見る水鳥さんが、今はとても有り難かった。
すいすいと二人でお酒を流し込む。
夜はこれからだ。