だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
余韻...ヨイン
「どのくらい経ったのかしら?お試し期間」
「二ヶ月経ちました」
季節が移り行くのはあっという間だった。
あの頃は秋が深くなる気配がしていたはずなのに、空気はもう冬を連れてこようとしていた。
晩秋。
長く、冷たい冬が来る。
「もうそんなに経つのね。慣れた?名前で呼ぶの」
意地の悪い顔で見つめる水鳥さんに、ドキッとしてしまう。
色気を振りまかれているようで。
「櫻井さん呼びの方が長いので、なかなか慣れないですよ。間違えるとすぐ拗ねるんですから」
「あら、彼女っぽい発言ね」
うっ、と思って熱燗を飲み込む。
墓穴を掘ってしまったかもしれない。
そんな私を見る水鳥さんは、おもちゃで遊ぶように楽しそうな顔をしていた。
どうして私の周りには、こんなにドSの人ばかりが集まるのか、と疑問に思う。
名前で呼ぶことは私たちのルールの中にあるので、出来る限り気を付けている。
それでも、いつもの習慣で『櫻井さん』と呼んでしまう。
呼んだ後の櫻井さんは、拗ねて子供みたいな顔をする。
しょうがないでしょ、と思いながらも、そんな櫻井さんがくすぐったくもある。