だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
なんだか色ボケしてるな、と最近思う。
もちろん、湊のことを想い出すことは沢山あるけれど、新しい刺激がそれを和らげてくれる。
私と一緒にいる時に、櫻井さんは簡単に湊の名前を出してくる。
私は、なんだか悪い気がして名前すら言えない事だってあるのに。
『湊さんを想い出した時は、言葉にして言え。そういうのを受け止めるために、此処にいるんだから』
櫻井さんのその言葉に救われているのは事実で、そういう櫻井さんをとても頼もしく思う。
傷付かないわけではないだろうに。
それでも、一緒に受け止めていこう、と想ってくれる。
大切にされている。
「櫻井君は、打たれ強いのよ?シグも知っているでしょう?」
確かに。
どんなに厳しいことを言われても、へこたれない櫻井さん。
打たれて落ち込んでしまっても、それをバネに今までだってやってきた人。
きっと、表に感情を出さないだけで傷だらけになっている。
でも、それを自分で立て直せる人。
自ら光を発することの出来る人。
「だから、シグはまず甘えることを憶えなさい」
そんなところまでお見通し、と言うのは少し気まずい。
水鳥さんは素知らぬ顔で熱燗を注文していた。