だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・逢いに、行くかしら」
その答えに、じっと水鳥さんを見つめた。
前を向いたままの横顔は、ぴんと空気を張っていた。
「ほんの少しでも、顔が見られればいい。傍にいることが出来なくても、ほんの少し触れられればいい。私の存在を、認めてくれればいい」
息が苦しいほど、切なくなった。
けれど、それと同時に水鳥さんがとても幸せそうに見えた。
相対するもののはずなのに、水鳥さんにはその感情が同居している。
切ないことさえ、いとしい、と。
「こんな考えは、この年齢になったから言えるものよ。シグには、持ってて欲しくないわね」
水鳥さんは、相手をとても大切に慈しむ人。
自分の犠牲を厭わない人。
そんな風に感じた。
「傍にいてくれる誰かが、色んな事から救ってくれることもあるわ。自分が何を想っているのか分からなくても、その感情どんなものか確かめられることもあるわ」
傍にいることで確かめる。
きっと、今の私と櫻井さんはそういう関係なのだろう。
誰より近くで、本当のあの人を確かめたいと想った。