だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「ちょっと待ってて」
そう言って、水鳥さんは立ち上がってお店の出口の方へ向かって行った。
私はもう少しお水を飲んで、お酒を落ち着けようとしていた。
二人でこんなにゆっくりご飯を食べたのはいつ振りだろう、と思いながら。
「おまたせ」
後ろから響いた声に、がばり、と振り向いた。
水鳥さんの悪戯癖は、いつまでも治ることがないのだろう、と思った。
「水鳥さんと飲んだら、ふらふらになる、って学べ」
「・・・櫻井さん」
名前を呼ぶと、少し顔をしかめた。
そして、自分ではっとする。
また苗字で呼んでしまったからだ。
「シグは本当にからかい甲斐があるわ。櫻井君は狡いわね」
「いやいや。水鳥さんの方が、俺達のことからかって楽しんでるじゃないですか」
なんのこと、と言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべる。
綺麗に笑うその顔は、右に出る人なんていないんじゃないかと思う。
水鳥さんは、そっと私の顔を見て一度小さく頷いた。
ここが甘えどころだ、と。