だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「じゃあ、そろそろ出ましょうか。お迎えも来たことだしね」
そう言って、そそくさと水鳥さんは帰る準備を始めた。
すばやい身のこなしであっという間に身支度を整える水鳥さん。
伝票を持って立ち上がり、会計に向かって歩き始めてしまった。
私はといえば、その背中を追うのに必死で、コートも手に持ったままだった。
急いで背中を追おうとすると、ぐいと腕を引かれた。
「櫻井さ――――」
「圭都」
ムスッとしながらも、強い口調でそう言った。
櫻井さんに引き止められて、水鳥さんは手早く会計を済ませているのが見えた。
「あの、早く行かないと。圭都さん、離して」
「風邪引いたらどうする?これから忙しくなるのに。ちゃんと上着を着ろ」
「でも・・・」
「水鳥さんはちゃんと待っててくれるよ。そういう人だろう?」
そう言われて小さく頷く。
なんだか小さい子供になった気分だった。
さりげなく私の鞄を持ってくれる櫻井さん。
空いた手できちんと上着を羽織る。
確かに、もう上着なしでは寒くなっていた。
櫻井さんの言うことを素直に聞いている。
とても、不思議な感じだった。
こうしてゆっくりとこの人と時間を重ねていくのかも、と。
そんな穏やかな気持ちで店を後にした。