だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「今日はいいわ。二人で帰りなさい」
「了解です。気をつけてくださいね」
ええ、と小さく言って私たちの方を向いた。
優しい顔で笑う水鳥さんに、にっこりと笑って見せた。
「二人が並んでいる姿、好きよ」
ぽつり、とそんなことを言っていた。
その言葉は、気持ちをとても温かくしてくれた。
それと同時に、なんだか心の中が苦しくなった。
なんと言っていいかわからずにいると、櫻井さんが私の手を握っていた。
水鳥さんから死角になるように、自分の背中で隠しながら。
寒くなってきてから、櫻井さんの手は少しずつ冷たくなっていた。
湊と同じ体温の手。
「ずっと並んでいられれば、いいですけどね」
そう言って、繋いだ手に力をこめた。
骨ばった大きな左手が、私の右手を強く掴んでいる。
安心できるこの手を大切に出来るかな、と少しだけ不安になった。
今はもうこの手に怯えることはないけれど、同じように大切に想える自信もなかった。
そんな私の気持ちを隠すように、櫻井さんの手を握り返した。
出来るだけ同じ力で。