だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「帰るか」
小さく言うと、櫻井さんは少しこちらを向いて笑った。
それにあわせて頷いて、車を止めてある駐車場まで一緒に歩いた。
二人で手を繋いで歩くことに、もう違和感を感じなくなっている。
この人は、私の心に入ってくるのが上手すぎる。
気付けば其処にいる。
そんな風に寄り添ってくれている。
言葉に出来ない安心感が、私を弱くさせている気がした。
「お前、頭の中で俺のこと『櫻井さん』って呼んでるだろ?」
この人は。
何の前触れもなく、核心を言葉にする。
その癖をお願いだから直して欲しい、と思った。
いつもこんな風に突然で、いつもこんな風に簡単に言ってしまう。
この人の発言は、いつも心臓に悪い。
「・・・すみません」
小さな声で下を向いたまま、私はそう言った。
それしか出来なかったから。
きっと櫻井さんはそのことを責めたりしない、と思う。
もちろん、拗ねたふりをしたり、ちょっといじけてみることはあっても。
それが、大切にされていることをいつも感じさせてくれる。
櫻井さんなりの、安心感の与え方なのだ、と知っている。