だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
暁...アカツキ
車内は少し寒い気がした。
まだ九月なので、冷房が入っているのかもしれない。
カーディガンだけでは少し肌寒く感じたので、キャリーケースの中からストールを引っ張り出す。
まだ夏仕様の薄い水色のストール。
薄手のそれは、手触りや色がお気に入りでいつもは会社に置いてある。
旅行の予定があったので、わざわざ週末に持って帰ってきたのだ。
するりと肩にかけて、座席に背中をつける。
隣の席にはきっと人が乗ってこないだろうから、そこに足を乗せて座っている。
窓の外は、夕闇を待っているようだった。
白い光が少しずつ色を変えていく。
目の前の景色が草原でも、海でも。
私が見つめるその先に広がっていたのは、何にも揺るがない『自然』そのものだった。
「綺麗」
誰に言うわけでもない。
ただ、こうやって少しでも口にしていないと、一人の時は言葉を忘れてしまいそうになる。
頭の中には色々な言葉が巡って、溢れ出しそうだ。
発する言葉はとても少なくなるので、頭の中がいっぱいになってしまう。
だから、時折呟く。
言いたいことは、もっと沢山ある。
けれど、今言えることは、自分が想っていることよりも少ないのだと知る。