だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
私の言葉に安心したのか、圭都さんはこちらを向いてゆっくりと笑った。
そして、私の頬にキスをした。
嬉しいと、言葉で伝える代わりに櫻井さんは小さくキスをくれる。
それで伝わることを、この人は知っているのだと思った。
ぬくもりが言葉になる。
それを知っているのだ、と。
静かな音で車は街へと滑り出した。
明るいネオンを通り越して、静かな住宅街へと車は進んでいた。
他愛もない話をしては、静寂が包む。
それを息苦しい、と思わないのは二人とも心を許している証拠だと思った。
「時雨、週末は何か予定あるのか?」
何気なく聞かれた言葉に、少しだけ緊張した。
今週末は、一人で出かける予定があった。
大切なことが。
「実は、少し出かけようと思ってるんです。一人で」
「そうか。じゃあ、俺は行かない方がいいな」
この人の人を気遣う気持ちは、私をとても楽にする。
尊重してくれているのだ、と実感できる。
けれど、そこに甘えてばかりもいられないだろう。
一つ、区切りをつける時が来たんだ、と思う。
小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
『圭都』さんに、聞いてもらわなくては。