だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
目の前の石の塊は、変わらずにそこにあった。
色褪せることなく、綺麗に手入れが行き届いたそれは、年に何度も掃除をしている証拠だった。
ママがいつも来ていることは知っていた。
雪深くなる前に、何度も足を運んでいる。
湊と、大切な人のために。
そっと、その灰色の塊に触れる。
手袋を脱いで、冷たいその石に手を当てる。
驚くほど冷たい。
自分の手の熱が、一瞬で吸い取られてしまう。
あぁ。
この冷たさ。
湊の手によく似てる。
冬が近付くほど、冷たくなっていく貴方の手に。
まだぼんやりとした頭で、ふと横にある墓碑に目を向ける。
亡くなった方の名前を連ねる、少し薄い四角い石。
凛として、真っ直ぐ立っている。
手を離して、その墓碑の近くにしゃがみ込む。
そして、一度目を閉じた。
ここに書いてある名前を見るのが怖かった。
全て現実になる。
逃げていたものを、今、目の当たりにする。
さっきまで私の髪を揺らしていた風が、今は止んでいる。
聴こえるのはさわさわと揺れる木々の音。
少し遠くを走る、車の音。
けれど、私の耳にはその音さえも届いていなかった。
苦しいほどの静寂が、私を包んでいた。