だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
息を一つ吐く。
肺の中が空っぽになるくらい、深く。
そして、目を開ける。
力強く閉じていたせいで、目の前が少しチカチカしている。
灰色の石。
お墓の石と同じもの。
冷たいその塊。
『山本 湊』の文字。
そっと触れてみる。
私の右手で。
綺麗に彫られた、湊の名前に。
なんだか、やっぱり現実味がないな、と想う。
でも、ここに名前があることが湊が眠っている証拠なんだ、と理解する。
ぼんやりと。
「此処に、いるんだね」
頼りなく響いた私の声は、突然吹いた風にさらわれていった。
風が頬を撫でていく。
冷たさが頬に触れる。
やっぱり涙が流れてしまった。
しゃがみ込んだまま、ただ呆然と湊の名前を見ていた。
平成十五年九月二十三日、
山本 湊 享年二十八歳。
数え年で記載される墓碑。
と言うことは、湊は二十七歳でいなくなってしまったんだ。
二十七。
湊。
もうすぐ、私は湊の年齢を追い越しちゃうよ。
やっと、追いついたんだね。
でも、追いつきたくなんてなかったよ。
ずっと、追いかけていたかったよ。