だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





息を一つ吐く。

肺の中が空っぽになるくらい、深く。


そして、目を開ける。

力強く閉じていたせいで、目の前が少しチカチカしている。



灰色の石。

お墓の石と同じもの。

冷たいその塊。






『山本 湊』の文字。






そっと触れてみる。

私の右手で。

綺麗に彫られた、湊の名前に。




なんだか、やっぱり現実味がないな、と想う。

でも、ここに名前があることが湊が眠っている証拠なんだ、と理解する。


ぼんやりと。




「此処に、いるんだね」




頼りなく響いた私の声は、突然吹いた風にさらわれていった。

風が頬を撫でていく。

冷たさが頬に触れる。




やっぱり涙が流れてしまった。

しゃがみ込んだまま、ただ呆然と湊の名前を見ていた。




平成十五年九月二十三日、

山本 湊 享年二十八歳。




数え年で記載される墓碑。

と言うことは、湊は二十七歳でいなくなってしまったんだ。




二十七。


湊。

もうすぐ、私は湊の年齢を追い越しちゃうよ。

やっと、追いついたんだね。



でも、追いつきたくなんてなかったよ。

ずっと、追いかけていたかったよ。




< 237 / 276 >

この作品をシェア

pagetop