だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・くだらない」
不意に冷たい声がリビングに響いた。
湊が楽しそうに笑顔を作っていた。
目の奥が笑わない、冷たい湊の笑顔。
「俺たちに幸せになって欲しい?本当に?」
湊はママに向かって見下すようにそう言った。
今までに聞いたことがないくらい、冷たい声。
背筋が、すっ、と冷たくなる気がした。
「母さんは、父さんと一緒になって幸せだった?」
突然の質問に、ママも私もきょとんとして湊を見つめた。
湊はそんなの気にもしていないようで、にこにこと笑顔のままだった。
「何を、突然――――」
「答えてよ」
逃げを許さない口調が、ママに降りかかる。
どうすることも出来ずに、ただ湊の手を握り締めていた。
「父さんと結婚して、俺が生まれて。幸せだった?」
もう一度、繰り返す。
ママは、一度目線を外して、少し笑った。
優しく、柔らかく。
「幸せで、たまらなかったわ。何があっても、平気だと想ってた」
湊のパパの話をするママは、少女のように可憐。
どれだけ大切だったのか、すぐにわかるくらいだった。
「潤さんとは別の所で、あの人を愛してる。あの人はいつまでも、私の中で生き続けるわ。もう逢えなくても、あの人が存在していた事実を愛してるわ」