だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
存在していた事実を愛してる。
今は隣にいなくても、確かに隣にいた人を想ってる。
それは現実の辛さを知っているからこそ、言えることなんだと想った。
お父さんも同じだったから。
『今』の大切さを知っている人。
「先に死んでしまうのがわかってても、父さんと一緒にいようと想えた?」
「もちろん」
何の迷いもなく、ママはすぐに答えた。
自信たっぷりのままの表情は、恋をしている女の人の顔をしていた。
「例え明日いなくなるのがわかっていても、傍にいたかった。あの人の最期の瞬間に、おやすみのキスをしてあげたかった」
ママの気持ちが伝わってきて、胸が苦しくなった。
今でも愛している、と。
「俺は、もしその時母さんの隣にいて、父さんが死ぬのがわかっていたら。どんなことをしてでも、母さんを説得して父さんのところにはいさせない」
「そうね。それが正しい選択なのかもしれないわね」
「じゃあ、なんで父さんといたの?」
湊の冷たい声は、ママを益々綺麗にさせた。
なんだそんなこと、と聴こえてきそうな笑顔。
何の迷いもない、透明な色の空気。
「誰に何を言われても構わなかったのよ。その先にどんな不幸が待っていても、あの人と過ごす一分が欲しかったのよ」