だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「この雨にも名前はあるの?」
抱きしめられている湊の腕の中から、そっと自分の手を伸ばす。
手に当たる雨はとても冷たくて、冬の気配を間近に感じた。
湊が雨の名前を知らないわけがない。
何も言わなくても教えてくれるけれど、この雨の名前を早く知りたかった。
冷たさが滲むこの雨を。
「冷たい雨と書いて冷雨。晩秋に降る雨。冬の厳しさを連れてくるけれど、寒い夜を作ってくれる雨」
レイウ。
冷たい雨。
綺麗な響き。
でも、一つ不思議に思った。
『寒い夜を作ってくれる』って。
「寒い夜を作ってくれる、って嬉しいことなの?」
湊の声は嬉さを滲ませていた。
私は寒い夜が苦手だった。
寒さは、寂しさを連れてくる。
一人でいるのが怖くなる。
「嬉しいことだよ。だって、時雨が寂しくなる夜だから。一緒にいたくなるだろう?」
そんなに優しい声で、そんなに狡い言葉を言わないで。
湊の声が胸の中に残る。
私を抱きしめる腕に力が入る。
その腕にぎゅっとしがみつく。
私のことはいつでもお見通しだ、と想って。