だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・どうしてここに?」
圭都さんの腕の中で冷静さを取り戻した時、最初に浮かんできたのはそんな疑問だった。
この場所は家族以外は知らない場所。
誰にも教えていない場所なのだ。
それなのに、私がいるこの場所に、どうしてこの人は来れたのだろう。
私は『湊に逢いに行く』と言っただけなのに。
それがどこかも、伝えたことは一度もないのに。
純粋な疑問を投げかけると圭都さんは笑った。
そして、雨に濡れている私の顔を指で拭ってくれた。
その行為が、あまり意味のないものだとわかっているはずなのに。
圭都さんの左手が、墓碑に伸びる。
私がしたように、そっと湊の名前に触れる。
刻まれた名前に触れる指から目が離せずにいた。
「・・・圭都さん?」
何も言わないこの人を見て、どんどん怖くなる。
しっかり抱きとめられている腕の中で、揺れている。
水の上に浮かんでいるようで、この手を離せばいつでも現実を見失ってしまいそうだった。
私を抱いている腕はとても力強くて、必死に掴まえているようだった。
今はもう、この腕から逃げようとは想わないのに。
離れていくことが不安、とでも言うように力を込めていた。