だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「この場所を知ってたからな」
どうして、と聞きたかったけれど、言葉にならなかった。
腕の力が、私を益々不安にさせた。
「ここは、俺の親父の墓だから」
聴こえたはずの声は、私の身体を素通りしてしまった。
私は動くことも出来ずに、墓碑に触ったままの圭都さんの手を見つめていた。
雨に濡れた骨ばった手は、きっと墓碑と同じように冷たいに違いない。
そんなことを、ぼんやりと想っていた。
「湊と俺は、異母兄弟なんだ」
体が震えるのがわかる。
冷え切った身体が、もっと熱を失っているのがわかる。
立ち上がることも、この腕を突き放すこともままならない。
走ってこの場からいなくなってしまいたいのに、一方で話を理解しなくては、と想う。
ただ、私を抱えているこの腕を、離せずにしがみついていた。
湊と圭都さんが異母兄弟?
湊以外にも息子がいたことを、ママは知ってるの?
あんなにも湊のお父さんを大切にしている人が、知ったら?
なにより、湊は知っていたの?
圭都さんが弟であることを。
今までずっと『湊さん』と呼んでいた圭都さんが、湊を呼び捨てにした。
いつもそうしていた、という風に。
そういえば、おぼろげな記憶の中でもそう呼んでいた気がする。
その響きは、呼びなれた人を呼ぶ声だった。