だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『はい、篠木です』
「お疲れ様。篠木、何かあったの?トラブル?」
長めのコール音の後、よそゆきの篠木の声が受話器から響いた。
電話の向こうでほっと、息が吐かれる音を聞いた。
やっぱり何かあったのだなと確信し、篠木に話を促す。
『実は、Bijou-brillant(ビジュ・ブリアント)の会長がこっちに来てるって情報を、さっきの会議で聞いたんですよ』
Bijou-brillant(ビジュ・ブリアント)。
六月に行われたブライダルフェアの主催者だ。
洗練された大人の女性だった、小柄な会長を思い出す。
目の前に立たれた時の緊張感。
様々な困難を乗り越えてきた、強く美しい女性、というのが御堂さんの印象だ。
『それで、会長が時雨さんの話を僕のクライアントにしたみたいなんです』
「そうなんだ。それは嬉しいことだね」
『えぇ。会長は時雨さんのこととても気に入っているみたいで』
「あら、嬉しい」
『問題はここからで。会長の話を聞いたら、先方が『是非、時雨さんに会ってみたい』って言ったので、どうしようかと。時雨さん、長期休暇中だったので・・・』
慌てた様子ではなく、淡々と状況報告をする篠木。
松山のように話が散らばることなく、冷静にまとめて話してくれるので、私はゆっくりと考えることが出来た。
このクールさが、篠木の一番いいところだな、と考えながら。