だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
さっきまで力の入っていなかった腕が、強く私の手を掴まえていた。
その手は冷たいのに、掴まれた場所は力強さで信じられないほど熱く感じた。
逃げることを許さないこの手を、振り払う手段は一つしかない。
けれど。
それは、同時にこの人を失うことだ、とわかっている。
「やっぱり櫻井さんのこと、好きになれないですよ」
――――嘘です。
本当は、もう好きになってます――――
「上司と部下でいさせてください」
――――隣にいさせてください――――
「もう、こんな風に触って欲しくないんです」
――――掴まえていてください――――
「私はやっぱり。たった一人しか、いらないんです」
――――今は、貴方なんです――――
そのたった一人は。
湊を想い出しても、それはやっぱり想い出。
でも。
この今の瞬間に想うのは、圭都さんなのだ、と。
気付いてしまった。
湊との絆を知れば知るほど。
湊が、圭都さんに何かを託してくれたんじゃないかと想える。
面影が重なる。
例えば、言葉の中に。
掴む腕の強さに。
触れる体温に。
見つめる瞳に。
追いかける背中に。